日本のSFファングループ・リストは、過去に何度もまとめられたことがある。ここではそうしたリストをはじめ、関連資料について御紹介したい。
1957年5月の、日本初のSF同人誌『宇宙塵』(柴野拓美主宰)の創刊をもって日本ファンダムは誕生する。その後10年ほどで全国的にファングループが増えはじめた頃、各所で分散的に調査活動が行なわれた。日本最初の試みとされているのが、徳島SFファンクラブ『カオス』が別冊として企画し68年7月に発表した「全国ファンジン調査」である(31誌を紹介)。また『宇宙塵』ないし〈日本SFファングループ連合会議〉が69年に行なった調査があるとのことだが、調査結果の発表についてははっきりしない。
60年代のファンダム紹介記事には、最初期のものとして〈恐怖文学セミナー〉が65年3月に発行した『SFの手帖』の柴野拓美「日本SFファンダム史」がある。その頃までの歴史を詳細にまとめたもの。また商業出版でも、やはり65年5月に刊行された日本初のSF概説書『SF入門』(福島正実編、早川書房)所収の柴野拓美「ファンダム」がある。同じく65年に発行された創元推理文庫の付録小冊子『創元推理コーナー・SF特集』でも、ファンジン紹介「SF同人誌は花ざかり」といったページが設けられている。60年代には、日本SF大会が開かれるたび、プログラムブックの中でファングループがまとめて紹介された。
各種ファンジン誌上でも、恵贈・会誌交換などの報告をかねたファンジン評がさかんに掲載された。なかでも最も有名だったものが、『宇宙塵』巻末の柴野拓美によるファンダム情報/ファンジン紹介記事である。
60年代後半のファンダムに関する記事としては、難波弘之の「青少年ファン活動小史」(『宇宙塵』72年10月号(168号)〜73年2月(173)号【http://www1.neweb.ne.jp/wa/sow/sf/uchujin.html】)が、60年代後半に急増する中学・高校生ファンが構成した“青少年ファンダム”の記録として有名である。またファンダムのこの時期については、のちに柴野拓美も『アシモフ自伝・(下巻)』(早川書房、1983年)巻末の「解説にかえて」で詳しく語っている。
70年にはいると、早川書房『SFマガジン』70年2月号に、柴野拓美による「日本ファンダムの現状」が掲載された。『SFマガジン』ではさらに、読者欄「てれぽーと」内の一コーナーとして、柴野拓美担当による「ファンジン・パトロール」が70年5月号から73年12月号まで掲載、また同誌内の新刊月評ページだった「SFでてくたあ」で、72年から数年間、年に1、2度「ファンジン・セクション」が設けられた。ファングループ紹介も「ファンダム・スポット」「ハロー、ファングループ」というコーナーが70年代末から80年代初頭にかけて企画されている。
1978年2月には、大判のビジュアル叢書だった『文藝春秋デラックス』のSF特集号『宇宙SFの時代』(通巻46号)の巻末に「全国主要ファン・グループ一覧」が掲載された。〈SFファングループ資料研究会〉(森東作主宰)の編纂になる144グループがリスト化されている。
79年5月には、この〈SFファングループ資料研究会〉が「第3回全国SFファングループ調査」を実施し(第2回の調査が先の『文春デラックス』に相当する。第1回については不詳)、その結果を80年6月、ファンジン『資料研レポート
VOL1-1』としてまとめ、発行した(全108団体を収録)。リストのほか、SF大会で募った意識調査なども掲載した、ユニークな一冊である。
80年代のファンダムに最も影響を与えたのが、徳間書店『SFアドベンチャー』で連載された一連のファンジン・レビュウである。80年から81年まで荒巻義雄「SFの発想と作法」(おもに創作評)、82年から83年まで巽孝之「SFケース・スタディ」、84年から85年まで新戸雅章「ファンジン自由自在」(おもに創作評)、86年から92年の月刊終了まで牧眞司「ファンダム・アクセス」が連載されていた。また新時代社『SFの本』では、巽孝之が『SFアドベンチャー』から移籍した形で「ファンジン・キャビネット」が連載された(巽孝之、牧眞司、小浜徹也が執筆)。
またこの時期、SF映画専門誌『スターログ』(ツルモトルーム刊の第一期)でも、新刊書籍紹介とともに毎号のように新刊ファンジンが書影つきで紹介され、これは終刊まで継続された。
80年代前半において、また通史的な意味でも最大規模のファングループ調査として知られるのが、新時代社から商業ベースで刊行された『日本SF年鑑』(82年版〜86年版)各巻末に掲載されたファングループ・リストだった。(『年鑑』自体、それぞれ前年に発行された書籍・コミック・映画・ビデオ等をリスト化し、概観・書評を加えた年次資料として貴重な存在だった)
『日本SF年鑑82年版』は第21回日本SF大会TOKON8の記念刊行物として企画・出版された。この『82年版』の「ファングループ・リスト」では、前述した〈SFファングループ資料研究会〉森東作が82年2月に実施したアンケートに回答した285団体の詳細な紹介リストが掲載された。同時に設けられたファンダム概況のページでは、柴野拓美が歴史的ガイダンスを執筆している。また翌年の『83年版』は前年度のリストを補足・改訂した「ファングループ・リスト」が掲載(担当者名不詳だが、おそらく中村英司による)。これは翌『84年版』では「ファンジン・リスト」となる(小浜徹也編)。『83年版』『84年版』ともに、巻頭のファンダム概況は巽孝之が執筆。『83年版』には柴野拓美によるコンベンション概況も掲載されている。
『85年版』では、改めて大規模な調査が実施された。このときの「ファングループ・リスト」は小浜徹也が担当。翌『86年版』の同リストは前年度の改訂版。ファンダム概況は『85年版』『86年版』ともに小浜が執筆。また同じ85年には、同年鑑の調査データをもとに、年鑑の編集スタッフだった鈴木孝が多面的な分析を試みた単発ファンジン『ファンジン・ファングループ・データブック』(エディトリアルあいらんど)が刊行された。なお掲載グループ数は、82年285団体、83年227団体、84年134誌、85年294団体、86年241団体。
『日本SF年鑑』が休止して以後の総合的な調査としては、90年に刊行された単発ファンジン『SFファングループ89』(渡辺英樹・山本和人編)がある。全233団体を掲載した、大規模なファングループ調査として最新のものである。これは89年の第28回日本SF大会「ダイナ☆コンEX」実行委員会メンバーだった両名が、大会企画の一環として企画したもので、参加申込書に記載されたサークル名にもとづいてアンケートを配布、リスト化したもの。
これ以後、総合的なファングループ調査はなりをひそめるが、1998年に大学SF研に限定しての調査がおこなわれた。当時配信されていた日本最初のオンラインSF情報誌『SF
online』【http://www.so-net.ne.jp/SF-Online/】3月号(so-net
コンテンツ事業部、月刊、97年3月創刊〜02年2月休刊)で企画された「SF研をさがせ!」【http://www.so-net.ne.jp/SF-Online/no13_19980325/special1-11.html】という特集である(小浜徹也監修、添野知生調査編集)。インターネットが浸透しつつあった状況を反映しての調査であり、その後リスト部分は同『SF
online』内で「大学SF研データベース」【http://www.so-net.ne.jp/SF-Online/sf_ken.html】として独立して管理・更新された(メンテナンスは添野知生)。
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付記しておくと、『SFアドベンチャー』では、82年12月号と89年7月号の二度、ファンダム特集が組まれている。また『奇想天外』(第三期、大陸書房)90年2月号(11号)でも89年度SF回顧特集に「SFファンダム」の項が設けられた(小浜徹也執筆)。また通史的記事として、88年に刊行された『別冊宝島79/世紀末キッズのためのSFワンダーランド』(JICC出版局、現・宝島社)に「私説・日本SFファンダム一応年代記」(牧眞司執筆)が掲載されている。
さらに、名古屋大学SF研の10周年を祝って刊行された記念ファンジン『デカミルク』(1994年)や、ワセダ・ミステリ・クラブの30周年を祝った『フェニックス』、東海SFの会の『ルーナティック』など、グループ単位でも貴重な資料をまとめたファンジンが刊行されている。
このほか、個別の地域ファンダムに関しては『北海道SFファングループリスト』(1984〜85年、北海道SFファングループ連絡会発行)などのリストをはじめ、それ以前にもいくつもの小規模な資料ファンジンが刊行されているが、ここでは言及を割愛させていただいた。
また末筆になったが、ファンダム関連で忘れてはならない書籍として、住宅新報社刊の新書『SF次元へのパスポート』(1978年)を御紹介しておきたい。ファン活動を多方面からとらえた構成の、商業出版物としては非常にユニークな一冊だ。古本屋などで見かけたら、是非お手にとっていただきたいと思う。
雑誌・ファンジン名は『 』で、ファングループ名は〈 〉で囲んだ。
『SFオンライン』【http://www.so-net.ne.jp/SF-Online/】1998年3月号【http://www.so-net.ne.jp/SF-Online/no13_19980325/index.html】の大学SF研究会特集「SF研をさがせ」【http://www.so-net.ne.jp/SF-Online/no13_19980325/special1-11.html】に発表した記事をもとに加筆修正した。
文=小浜徹也
協力=牧眞司・森東作・代島正樹
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